人気ブログランキング |

縄文語のかけらーその147 (通巻第832号)

 アイヌ語の horak (ホラク )に関連が有るかも知れないと言うことで、日本語の「ホロブ(滅ぶ)」を比較対象として取り上げようと思う。比較する両語の音(おと)の響きが幾分か異なることは、この際、目を瞑(つぶ)って頂こう。

▽ 古語辞典 「ほろ・ぶ」
 ほろ・ぶ 【亡ぶ・滅ぶ】(自バ上二) ①なくなる。絶える。消え去る。
 ②滅亡する。《例文》猛(たけ)き者も遂(つひ)には滅びぬ 偏(ひとへ)に風の前の塵に同じ (平家物語・祇園精舎)
 《現代語訳》勇猛な者も結局は滅んでしまう。まったく風の前の塵(ちり)に等しい。
 ③落ちぶれる。廃(すた)れる。

▼ 古い東国方言の「ほろく・ほろぐ」を見る前に、名詞の「ぼろ(襤褸)」を見て置こう。襤褸切れなどの「ボロ」である。
...ぼろ【襤褸】①使い古して役に立たなくなった布。ぼろきれ。つづれ。 ②つぎはぎの(汚ならしい)衣服。
 ③みっともない欠点・失敗。《例文》ボロを出す。

◎ 「ほろく」や「ほろぐ」は古くからの東国方言なのだが、庶民の使う口語表現であるから、古語辞典などには出てこない。
 そこで、インターネット検索の『 weblio 辞書 』を覗いてみた。それを覗いていて分かったのだが、「ほろく・ほろぐ」の他、「ほろ~(ナントカ)」という形で使われる言葉というのは、何も東国の専売特許ではなくて、西日本各地の方言にも数多いという事実だった。
...何と、兵庫県や四国・高松地方の言葉など幾つかの地域に、「 horse ホロセ 」に近い、イヤ、そのものズバリの「ほろせ」と言う言葉が、病気の名前として有ると言う事が分かった。たまたま音が似ているだけかも知れないが、頭の片隅に入れて置いても罰(バチ)は当たらないだろう。折りが有ったら分析に取り組んでみたいと思う。

☆ 「ほろせ」=蕁麻疹 「ほろし」とも。
...蚤や蚊に血を吸われて、皮膚が膨れ上がった状態。「ほろし」の訛(なま)り...一種の蕁麻疹。 ...とある。
 これだと、アイヌ語の「 horse 」=「(腐って)膨れる」に一脈通ずる所が有るのだが...。

★ 肝心の「ほろぐ・ほろく」は、また次回へと繰延になった。反省してます。
   (次回につづく)

# by atteruy21 | 2019-12-16 11:01 | Trackback | Comments(0)

縄文語のかけらーその146 (通巻第831号)

 アイヌ語の「 horse 」と言う語彙は、一般的に「腐る」と和訳される。勿論、それで良いのだが、その「腐る」の意味合も、腐って原形をとどめない程に変わり果てると言う迄の激しいものを言うようだ。亡くなった愛しい妻のイザナミを追って、黄泉の国へ行った迄は良かったが、イザナミの体に蛆が涌き、雷神が取り付いた恐ろしい姿に恐れをなしたイザナギが、慌てふためいてこの世へと逃げ帰った、あの神話のように変わり果てる。それがホロセと言うアイヌ語の感覚なのだ。

▽ horse の語源、この語の成り立ちを考えてみたいなどと、前回、身の程を弁(わきま)えぬ考えを述べた。武蔵の地名の由来の検証には直接関係しないのだが、やはり少し気になるので考えて置きたいのだ。きっと何かの役に立つかも知れないから。
...horse と言う言葉は、 hor-se と言う2語で構成されると考えられる。

▼ hor (ホロッ) + -se (~と言う、~という音を立てる) 私が言葉を考える上で良く使う、オノマトペア(擬音語・擬態語)の理論をここでも用いようと言う訳である。アイヌ語や日本語に於いては、オノマトペアは、言葉の発生の最大の要因になると私は思っている。
...この「ホロッ」とか「ほろ」と言う発音が、一体どんな言葉を産み出すのか、見物(みもの)なのである。

◎ アイヌ語に「 horak ホラク 」と言う単語がある。
... 《中川辞典》 horak 崩れ落ちる。倒れる。; 直立していたものが、支えが無くなって地面に落ちた格好になる。
 《萱野辞典・例文》 toan ta cinine cikuni an pe ne ap ,horak wa ne noyne isam .
           あそこに枯れ木が有ったものだが、枯れたらしく(今はもう)無い。

☆ 大和言葉で擬音が元になって出来たと考えられる語彙に、「ホロホロと」などの副詞句が存在し、更に、動詞には「ほろく」とか「ほろぶ」など、アイヌ語の「 horak 」に意味と音で通ずる言葉が気になるのである。
...先ず、一番オノマトペアらしい言葉の「ほろほろ(と)」から意味を確認してみよう。古語辞典によって。
ほろ・ほろ (副詞)①木の葉などの散り乱れるさま。はらはら ②人などが分かれ散るさま。ばらばら ③物が裂け破れるさま。ぼろぼろ ④涙がこぼれ落ちるさま。はらはら ⑤雉・山鳥などの鳴き声にいう語。ほろほろと

★ 次回は、古い東日本の方言の「ほろく」や、現代語にも残る「ほろぶ(滅ぶ)」と言う語についてもアイヌ語の「 horak 」との親戚関係の有無を検証したいと思っている。
    (次回につづく)

# by atteruy21 | 2019-12-15 20:05 | Trackback | Comments(0)

縄文語のかけらーその145 (通巻第830号)
 アイヌ語で「腐る」の意味を持つ語彙を、もう一つ二つ挙げてみよう。「 horse ホロセ 」が頻繁に使われる言葉の一つである。

▽ 萱野茂アイヌ語辞典 
 horse 腐る。腐乱する。 この語彙は、 munin と較べると、厭うべき在り方を表すもののようだ。
...萱野辞典の「 horse 」の関連項目に興味深い記述が有るので紹介しよう。

▼ ホロセプトッチェプ ウヤテクペ 【 horse-p totce-p uyatekpe 】
 訳 ; 腐った者、腐ってぐにゃっとなった者、形をとどめない程に腐った者[悪口]。...とあって、更に解説が続く。
* 古い時代の言葉で、昭和10年代からは聞いた事がない。...と続く。
 腐敗・腐乱が進んで形が崩れるような状態を指すようだ。念のため「 totce 」と言う関連語の意味を確認しよう。
トッチェ【 totce 】(打ち身で)腫れる。こぶ。凸(でこ)。

◎ どうやらトッチェは、「腐乱して膨張する」の意であるらしい。...そこで笑い話として聞いて頂いても良い語源論を一つ。
...江戸期に成立したらしい用語が一つ。「ドザエモン」と言う言葉がある。ドラえもんではない、念のため。
 ○どざえもん【土左衛門】溺れて死んだ人の膨れた死体。水死人。
...水死人の姿が、成瀬川土左衛門という力士の太り方に似ていたからとも言う。

☆ 力士の名前も関係が有るかも知れないが、私は、この「ドザエモン」という言葉は、古い言葉の「ドザエ」とか「トッチェ」と言う音をもった「膨張する」を意味する語が有ったのだと考える。だからこそ、腐乱して膨張した水死人を「ドザエ・モン=膨張した者」と呼んだのだと。

★ もう一つの「腐る」は、「 nipopke 」である。萱野辞典の例文を見て頂こう。
...hempara e-supa amam ne ya ,ponno nipopke noyne huraha at na . hurarakka wa inkar .
 いつお前が煮た(炊いた)ご飯か。少しあめて(饐えて)いるらしくて臭いがするぞ。臭いを嗅(か)いでみてくれ。
《語註》hura-rakka 臭いを嗅ぐ
 こちらの語も、腐ってしまい棄てるしかない物を意味しているようだ。

...次回、horse の音韻分析を行い、この語の成立の過程を考えてみたい。
   (次回につづく)

# by atteruy21 | 2019-12-14 11:46 | Trackback(2) | Comments(0)

縄文語のかけらーその144 (通巻第829号)
 日本語の「腐る」と言う観念と、アイヌの古人にとっての『 munin』( =「腐る」と和訳される事が多い)という言葉で表される意識との間には、ピタリと符合しないニュアンスの差が有るようだ。イヤ、その意識のズレは、かなり大きいものと言わなければならないと私は思う。

▽ 前回でも少し触れたことなのだが、アイヌ語の「ムニン」という語には「大地に帰す、大自然の循環の過程に物を還(かえ)してやる」、そう言う大きな考え方、生きる上での心の構え方が横たわっているのではないかと私は思うのだ。厭(いと)うべき物として我が身の周りから棄て去ってしまうのか、それとも大地に還して別の生(せい)を生かしてやるのか、古代アイヌの、アイヌの先人達の大切な世界観が込められているのだと...。

▼ アイヌ語学者の中川裕教授の辞典に、面白い例文が載っている。前回紹介した悪神を切り刻む話と良く似た噺(はなし)だが、より分かりやすい例文なのでお読み頂きたい。
...sinrus us wa oka samamni a=eymekkar 苔むした倒木に(魔物の肉を)分け与えた...逐語訳を施すと、...
 苔の生えている横になった木(倒木)に、(魔物の肉を)分け前でくれてやった。
《語註》 sinrus 大地や木の毛皮=苔  e-imekkar ~を分け合う  a-eymekkar ~を(分け前として)呉れてやる

◎ なぜ魔物の肉を切り刻んで倒木に分け前として呉(く)れてやるのか。アイヌの古人は、悪魔と言うものは、地獄の底へ踏み落として、二度と地上に出てこないようにするべき者だった。その肉を腐れ木に喰わしてしまえば、正に完璧な始末を付けることになる訳である。
...その際、気を付けなくてはならぬ事が一つ有った。それは、魔物の肉は間違っても生きている動物に食わせたり、畑の作物の肥料にしてはならないという約束事である。悪魔と言うものは、死んでも、それで他の何者かの役に立ってはいけない、役立たせてはならないと言う原則を忘れてはならないのである。

☆ だから、魔神の死体というのは切り刻んで腐れ木に喰わしてやるのである。腐れ木であれば、それが新たな生を得る事も無い訳だから。魔神は、腐れ木の肥料に為って、何の役にも立たない無益な死を遂げる訳である。

★ munin は、崩れ果てるにしても土に帰って新たな生を生み、何かの役に立つことを意味する。只ただ、腐れ果て捨て去られるべき者を表す言葉ではない。
...次回には、もう一方の腐るを意味するとされる「 horse 」について、私の考えを述べたい。
    (次回につづく)

# by atteruy21 | 2019-12-13 12:45 | Trackback | Comments(0)

縄文語のかけらーその143 (通巻第828号)
 「むん」から「 kuta 」に至る長いなが~い等式に、すっきり納得がいったよと言う方は、多分そう多くはないだろう。尤もなことである。橋渡しの中間の駒(こま)を欠く不完全な等式だから、架け橋を渡って行けないのである。

▽ アイヌ語の「 mun 」に、「腐る」と言う意味が有ると言うことの証明が未だ不十分のままだと言うことである。ムンの意味に「ゴミ」と言う観念が含まれることは萱野辞典などでも述べられている。しかし、「 mun 」という言葉に、「腐る」と言う意味まで与える人はいない。そこで、腐るという意味が有って 、且つ、「 mun ・ムン 」という音(おん)を含むアイヌ語の語彙なり言い回しが有れば、眼前に架かった谷間の梯(かけはし)を渡って、古日(ふるひ)くんが恋しい憶良たちの許へ駈けだして行けたように、しっかりした橋、完全な等式が出来上がる訳である。

▼ 「腐る」を意味するアイヌ語に幾つかの言葉が有るのだが、その内の二つに、「 munin ・ムニン 」と「 horse ・ホロセ 」がある。
...中川辞典を見てみよう。
 munin 腐る 【類義語】ホロセ horse とムニンの違いは定かでないが、木などが腐る時には専(もっぱ)らムニンを使うようである。動物の遺骸のような場合は、どちらも用いる。 nipopke は御飯などが食べられないような状態になることを言う。

◎ 萱野辞典も見てみよう。
 horse 腐る。腐乱する。 cep horse 魚が腐る kam horse 肉が腐る
 munin -ni 朽ち木。腐れ木。

☆ どうやら同じ「腐る」と言う観念にも、その腐り方に微妙な、時には大きな違いが有って、そこに我々現代人には測り知れない深い意味が、古人の感性が秘められているようなのだ。
...大雑把に言って、物を大地に還して循環再生の過程に入れ込むと言う観念( munin )と、腐れ果て異臭を発する物を離れた所に打ち捨てる( horse )との対立が、これらの語彙の中に有りそうなのだ。

★ 次回にこの対立する観念の存在を例文を用いて証明したい。中川辞典の例文の一つを宿題に出したい。役立てる物と捨てる物の区別をアイヌ古人はどう考えていたか。
...arwen kamuy anakne tuypatuypa wa ,munin-ni eymekkar ene an hi ne .
  悪神は、切り刻んで、腐った木に分け与えてやった。
 これだけの文章に、アイヌ古人の観念が込められ語られている。次回のお楽しみに...。  (次回につづく)

# by atteruy21 | 2019-12-12 12:35 | Trackback(1) | Comments(0)