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アイヌ語と日本語は兄弟(同系)の言語か、それとも他人か-2

 ついでに言えば、一つの言葉(語彙=ごい)が動詞としての要素を持ちつつ、
併せて形容詞としても振舞うという性質·機能は、日本語にも見られる点で
あるということも注目に値する。一例として、「有る」と「無い」が挙げら
れる。反対語、対語として辞書に載っているが、それぞれの品詞は何か。
 岩波国語辞典によれば、「有る」は動詞で「無い」は形容詞とされている。
反対語、対語が、全く別の品詞『範疇(はんちゅう)』の中で語られるという
のも論理的には一貫性、体系性に欠けると言わざるを得ないのだが、世界の
言語の多様性というものを考えれば、全くあり得ない話とも言えまい。
 小学生の頃に、動詞と形容詞の見分け方を教わった。動詞は「う」の段で
終わり、形容詞は「い」段で終ると憶えたことがある。確かに「ある」は
「う」段だし、「ない」は「い」段で終わる。やはりこの辞書の言っている
ことは正しいのか。
 だが、時間を少し遡れば、「有る」は昔、「あり」だったのであり、
「ない」の方は「なし」であった訳(わけ)だが、この「あり」は、果たして
動詞なのか形容詞なのか。一例として、「日本男児ここにあり」等の言い方が、
昭和20年以前に好んで使われた流行語だったそうで、ここでいう言い切り型の
「あり」は、果たして動詞なのか、形容詞なのか。
 時間の縦の軸から目を転じて、空間(水平)の横の軸を眺めてみると、方言に
注意を引くものがある。標準語で「痛い!」というべきところを、九州の一部の
地方では「痛か!」と言う。これは「痛くある」ということの縮言なのだが、
アイヌ語の発想と共通のものを感じさせないだろうか。
 ちなみに、アイヌ語ではarka「痛くある(=痛い)」/「痛む」となり、アイヌ語
研究者の中川裕氏のアイヌ語辞典では、arka〔動1〕痛い、痛むとなっている。
 このように、「文法上、動詞と形容詞は全く別の品詞であり、異なる機能を
持つものである」という、常識的には一見明白に正しいと見える見解が、全ての
言語に当てはまる真理ではなく、重大な誤りに導く危険さえ孕む(はらむ)もので
あるということに注意を払う必要があると強調しておかなければならない。
 一見して真理と見える命題で、大いなる危険を孕むもう一つの問題は、人称の
問題である。
…人称は世界共通の文の構成要素か…。
 中学生になって初めて英語を習ったとき、I,my,me、you,your,you、he,his,
him、she,her,her…などの人称代名詞の変化を憶えるのに苦労した人は少なく
ないだろう。
 英語では、さほどのことはないのだが、他の「印欧語」、例えば、スペイン語
では、主語の人称の別に伴って、動詞·形容詞の活用形が目まぐるしく変化する
のだという。私の場合、英語を習い初めた中学生のとき、人称代名詞の he や
she に対して、日本語にはしっくりと来る訳語がなく、何となく違和感があった
ことを憶えている。
 思い出してみると、私の子どもだった頃は、大人たちに会話に「彼は…」とか
「彼女の…」などという言い方は、全くされていなかったように思う。戦後の
中学校の英語教育の中で、三人称の訳語として、これらの語が使われて若年層に
広がって行くうち、徐々にその親世代にあたる大人たちの会話にも登場するように
なって行ったのではないか。
 戦前あるいは戦後間もない頃までは、普通の大人たちにとっては、英語の he や
she にあたる専用の、一語での呼称はなく、もし、これをあえて言おうとすれば、
「あの方(かた)は…」とか、「その女(ひと)に…」などと、二次的な複合語で表現
するしか方法はなかったのである。
 もちろん明治以降、著名な小説家などが作品の中で彼、彼女を代名詞として使う
ことはあったが、それは作品世界の中の、西洋文明の影響下の鹿鳴館的言葉遣いに
過ぎないものであって、一般庶民の会話には絶対に登場しないものであった。
 「彼」や「彼女」に限らず、そもそも日本語においては「われ」「なれ」などの
人称代名詞が述語(動詞·形容詞等)に伴って姿をあらわすことは滅多にない。
 行為や話題の主(ぬし)が誰であり、その対象が何であり、誰であるのかは、印欧
諸語のように人称代名詞(I,you,heなど)を用いて表示されることは稀(まれ)であり、
特定の接辞(せつじ)「ar」「as」など(後述)を述語の語尾に付加することで話題に
関係する人格や事物の間の力の優劣や位置の高低が示される。それにより、誰が誰に
という位相(いそう)が特定され、結果として(人格)人称が表示されたのと同様の効果が
もたらされるのである…次回に続く。

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by atteruy21 | 2017-08-05 15:08 | Trackback(37) | Comments(0)