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アイヌ語と日本語は兄弟(同系)の言語か、それとも他人か-25

 「...=as」の方はどうだろうか。周辺の語として動詞「as」がある。基本語意は「(目の前に)立つ」で縦の方向の動きを含んでいる。 例えば、apto as (雨が降る)、rera as(風が吹く)などがある。全て「立つ」が中核の語義である。何だ、どちらにも、ちっとも「立つ」が入っていないじゃないか、と言う勿(なか)れ! 日本語でも昔は風が立つと言ったし、「雨が立つ」と言っていたのである。「風が立つ」の方は、今でも「涼風が立つ」とか「秋風立つ」とか言うが、「雨が立つ」の方は、現代語では廃(すた)れてしまい、「夕立ち」という熟語の中にしか残っていない。
「as」は恐らく、独立して自分の脚でしっかりと立つという語義から出発して、他者からの支配や制約を受けずに、自由に力強く
在り、行動するという意味合いを獲得し、それが接辞「...=as」の意味にも反映されたものと考える。
 「...=as 」の語義をよく示す文例を挙げてみよう。   〈アイヌ神謡集・兎が自ら歌った謡〉から
 tu Pinnay kama re pinnay kama terke=as kane sinot=as ayne,...
二つの谷、三つの谷を飛び越え飛び越え、遊びながら来て...           ←知里幸惠さんの訳文
二つの谷川、三つの谷川を越えて、軽々と跳びつつ気楽に遊びながらやって来て  ←私の試訳文
「sinot=as kor」=「気ままに遊びながら」という表現があり、「...=as」の原義を知るのに好都合なので、sinot (遊ぶ)という言葉の意味を、ここで改めて説明しておきたい。この兎の話では、文字どおり「子どもが遊ぶ」の意味で使われているのだが、
「sinot」は元々「男女が自由に交わる」という意味を表していた。昔は、世界中で、若い男女が自由に交わって(性関係をもって
ということ)相手を選ぶという風習があった。日本では、それを歌垣(うたがき)とか「かがひ」と称した。
 男女が野原などに集まり、向き合って並んで歌声や問答を掛け合いながら進んだり退いたりする。それを子どもたちが真似して
遊びに採用した。それが「花いちもんめ」という遊びであり、年配の人ならばご存知だろう。
アイヌ語のsinot (シノッ)は、まさにこの「男女が自由に交流する」を意味しており、それが「遊ぶ」に繋がったのだ。
 上代の大和言葉では、「人を慕う」、「恋する」を「偲ぶ(しのぶ)」と言った。文字で書くと「しのふ」と表記されるのだが
実際の発音はシノップ(sinop)であったと考えられている。
 この「偲ぶ」は、「忍ぶ(人の目から逃れる)」という語と発音が類似していたため、また男女が人目を避けて会うという感覚と結び付いて二語の混同が起こり、後に「忍び合う恋」といった表現を生むまでになった。
 アイヌ語と日本語では、出発点は同じ意味でも、「自由に明るく交わる」から「人目を避けて落ち合う」へと、正に逆方向へ
発展した訳である。
 「sinot」が、「しのふ」に繋がる言葉であることは、以下の金田一京助氏の「ユーカラ集Ⅳ」のKemka karip = (朱の輪姫)の一節にも登場するので、ご覧いただき、確認をしていただきたい。
  (次回につづく)

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by atteruy21 | 2017-09-25 12:51 | Trackback(2) | Comments(0)