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もっと知ろう‼アイヌのことーその3(アイヌ・日本の民俗とアイヌ語ー10)

アイヌ・日本の民俗とアイヌ語(その10)  通巻第172号

接頭辞「i-...」(= それ~する者)についてーその1

 アイヌ語の接頭辞で「 i-...」という語句がある。漠然と「人の」とか「ものの」とか、或いは「もの」を意味するとされる。
特に最後の「もの」という意味を表す語は、他動詞を自動詞化するときなどに用いられ、アイヌ語の表現の幅を拡げ、豊かにする効果をもち、色々な話法に活用されてきた。
 「他動詞を自動詞化する」などと言っても、何のことかよく分からないと言うのが多くの人の気持ちだろう。例をとって説明をすると、「 i-ku 」という自動詞がある。「飲酒する」という自動詞として訳されるのだが、元々の形の「 i-ku 」という語句は
「 i = もの」という語と「 ku = ~を飲む 」という語の合成された形で、全体として例の「アレを飲む」という意味になる。
 ここで謂(い)う「アレ」とは、酒のことを謂うのである。「 i - 」という語は、敢えて口にできないもの、或いは口にするまでもないもの、話者同士の間での自明の分かりきった物を指すのである。文法的に言えば、「 ku = ~を飲む 」という他動詞を
合成語「 iku = 酒飲みする」という一語(自動詞)にする訳である。
 もう一例挙げてみよう。「 inom = (カムイに)願い事をする、祈る 」という自動詞である。元々は「 i = それ(カムイ)」と
「 nom (~に願う、~に祈る)」という他動詞を合成したもので、一語になると自動詞化して「祈りを捧げる」だとか「願い事をする」という意味になる訳である。自動詞を使った場合と他動詞を用いた時の、それぞれの言い方の間にどれだけの違いがあるのかは、よく分からないと言うのが実際の所のようだが、自動詞化したものの方がより荘重(そうちょう = おごそかで重々しい)な
雰囲気が醸(かも)し出されるらしい。
 「 i - ...」という語句は、「それ」とか「もの」を、それとなく、その名を口にせず暗(あん)に示すものなのだが、こうした語法が多用されるのには、やはり、それなりの理由があるのである。それは禁忌(きんき=タブー)の存在である。或いは聖性への畏(おそ)れと言ってもいいかも知れない。アイヌ民族の先人たちは、カムイや自然に対する敬虔な心の構えをその暮らしの基盤に
どっしりと据えていたのである。
 敬うべき聖性や恐るべき存在に対し、アイヌの人々は直接にその名を言わず「それ・あれ・もの」でその存在を暗示した。一例
として「余市(よいち)」という地名を挙げよう。「よいち」という地名は、実は後世になって変名されたもので、元々は、語順も
違って「イヨチ」というものだった。その地名の命名の由来は、アイヌ語「 i -ot- i 」= 「それが・ウジャウジャいる・所」と
いう意味だったと謂うのである。ここで謂う「それ」は、恐ろしい「蛇」の事である。湿地帯で蛇の多い土地柄なのでこう命名されたのである。「余市の皆さんご免なさい」  (次回につづく)

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by atteruy21 | 2018-02-12 11:08 | Trackback | Comments(0)