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もっと知ろう‼アイヌのことーその3(アイヌ・日本の民俗とアイヌ語ー14)

アイヌ・日本の民俗とアイヌ語(その14)  通巻第176号

接頭辞「 i-... 」( = それ~する者)についてーその5

 アイヌ語でも、古い時代には犬のことを日本語と同じく「 inu イヌ 」と呼んでいたのではないかと私は考えている。それが、
何故「セタ( seta )」等という、余り日本語(大和言葉)とは縁も無さそうな言葉だけになってしまったのか。「セタ」をそのまま
イコール「犬」と短絡して考えてしまうと、問題解決の糸口は見えて来ないのである。犬を表す大和言葉で、「セタ」という音を
含む言葉や似通(にかよ)った発音の語彙は無いだろうか。
 犬という動物そのものには、「セタ」という音は結び付かない。ただ、ちょっと対象の範囲をずらして、「山犬(やまいぬ)」と
呼ばれた動物に注目すると、わずかに曙光(しょこう)が射し込んで来るのである。「日本狼(にほんおおかみ)」という名をご存じだろうか。恐らくは大正時代までで絶滅してしまったと考えられる日本固有の種である。写真で見たことのある方なら同じ思いを
抱かれると思うが、狼というには余りにも貧相で、どう見てもその辺の野良犬にしか見えないのである。だから例えば東北地方の
猟師たちからは、「お犬さま」などと呼ばれていたのである。
 この「日本狼」は、本州は勿論、北海道にも生息していたのだが、蝦夷狼「horkew kamuy (ホロケウカムイ)」と較べ体も小さく
貧相だったから、狼(おおかみ=大神)の扱いを受けられず、価値の低い犬として遇(ぐう)せられたのである。
 
 このカムイの扱いを受けない、価値の低い、言わば「小神(をがみ)」とでも言うべき存在に、アイヌの先人は、「セタ」という呼称を送ったのである。「セタ」という言葉は従って、最初から犬を見下した蔑称(べっしょう=さげすんだ呼び名)として成立した訳である。誤解を避けるため言って置くと、アイヌの先人たちは、犬(山犬)と狼とを全く別種だとは考えていなかったと言うことが大事な点で、カムイとしての格の違いが犬と狼を分けるのだという事である。くどいようだが、「セタ」という語彙で人間に飼われた「ポチ」のような存在をイメージしてしまうと、セタという言葉の真意には到底到達できないのである。

 この関係をしっかり押さえた上で、「セタ」という音(おん)が日本語に、日本の何処かに残っていないかという事に眼を向けて
みる必要があると私は思う。
...「世田谷(せたがや)」という地名が、東京にある。いつの時代の命名か私は知らないので断定はできないのだが、もしそれが
古い時代に遡(さかのぼ)るのであれば、これが「日本狼(山犬)が多くいる谷間」を意味するという可能性が、僅(わずか)な望みが
見えてきたと言えるのかも知れないのだ。  (次回につづく)

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by atteruy21 | 2018-02-16 12:01 | Trackback | Comments(0)