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もっと知ろう‼アイヌのことーその3(アイヌ・日本の民俗とアイヌ語ー41)

通巻第203号  『モノ』という言葉についてーその15

 「兵衛」という漢字は、身分の低いものを表す大和言葉の「べ」や「べえ」に宛てた宛字である。例えば侍が、改まって正式に名乗る場合、平仮名で書けば「ひゃうゑ」となる。通称「権兵衛(ごんべえ)」と呼ばれている侍も、殿や貴人の前で正式に名乗るときは「ごんのひゃうゑ」となる。しかし、その実際の発音は「ごんの・ひょううぇ」なのである。正確に言うと、実は、その「ひょううぇ」という発音も後代のもので、この言葉が使われ始めた頃は、「ピヤングウェ」と、元の中国語に近い発音だったのではないかと私は考えている。
 日本語の仮名の表記には、現代人の常識からはちょっと信じがたい約束ごとがあって、例えばその代表例は、「ん」という字が
古い時代には大和言葉の表記には存在せず、例えば中国語の「王(おう)」を平仮名で表記する時は、「わう」と書いたのである。
文字で「わう」と書くからと言って、では発音も「わう」と言うのかというと、さにあらず、実際の発音の方は「わんグwang」と
読んだのである。「王」の中国語の発音は、今も昔も「 wang ワン グ」だからである。「わう」と書いて「わん」と読んだ訳であるが、前にもアテルイのことを述べたとき、英雄阿弖流為を貶(おとし)めて「悪路王(あくる・わう)」という鬼を退治した噺に
でっち上げたことに触れた。その時は特に解説をしなかったが、当時の発音は「アクル・ワン」に近いものだった筈なのである。

 日本語で「ん」の発音を仮名での表記に取り入れたのは、あの有名な弘法大師・空海だと言われている。経典の翻訳に当って、梵語(サンスクリット語)のオームの字[漢字訳では吽(うん)]に代えて「ん」の字を創出したのだという。「オーム」だの「吽」だのと言っても理解できないと思うので、チラッと説明しよう。まず中国訳の吽は、阿吽の呼吸などと言うその吽である。「阿吽」はサンスクリット語の音訳で、密教では、この二字を天地一切のものの初めと終わりを表す根本の原理とする。「あ」と「ん」を
表している訳である。英語で言えば、「from A to Z 」に該たる。「ん」の字が発明される前は、「ん」を含む語の表記はどうしていたのか。
 解決法は二つ有って、一つは「ん」の代わりに「う」や「む」を使う。もう一つは、何と、文字を書かず跳ばしてしまう方法である。跳ばすやり方の例を挙げると、「案内」を「あない」とし、「懸想(=思いをかけること)」を「けさう」と表記するなどがある。
 「兵衛」は、後で詳述するように和製の漢語であるが、元の中国語の古い読み方の「ピヤング・ウェイ」をそのまま持ち込んだ
もので、「ひゃううぇ」と書いて「ピアンウェ」に近い発音をしたのである。では、この和製漢語の「兵衛」は、いったい、どのようにして創られた語彙なのか。これが次の課題である。
  (次回につづく)

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by atteruy21 | 2018-03-15 12:15 | Trackback(2) | Comments(0)