人気ブログランキング | 話題のタグを見る

アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその6

通巻第310号 「有る」と「 an 」についてー6

 音韻の転倒が起こって新しい語彙ができて、一時的に新旧二つの語彙が並立する時がある。「puray 」と「 puyar 」が、そのよい例であるが、文字の無い社会では、どちらが元の古い語の形であるのか分からなくなってしまう場合もある。例えばアイヌの家屋( cise チセ)に「 rorunpuyar 神窓」という構造がある。「 rorunpuray 」とも言う訳で、アイヌ民族の伝統的な考えでは、そこから神が出入りするのである。人間(アイヌ)の出入り口とは別なのである。神や魔物というものは、必ずここを通って天界や魔界に出入りするものなのである。ユーカラの英雄たちもここから天界に飛び上がり、空を飛ぶのである。

 さて、どちらが元の言葉か。語の成り立ちを分析的に考えれば、自ずと明らかになるだろう。この「窓」という語で、現代風の格子のついた window を思い浮かべてしまうと正しい理解には到達できないだろう。縄文時代の円錐形の屋根をもった家、アイヌ家屋の原形は、あの、例を替えて言えば、アメリカ原住民の人たちのテント風の家を想像していただけば分かるだろう。そういう家屋に設けた風通しのための穴、それが「 puyar ・ puyra 」なのである。「穴」といえば、アイヌ語には「 puy 」という語と「 suy 」という言葉の二語がある。 puy は自然にできた穴、 suy の方は人の手で掘った穴とされる。アイヌの家に人が作った穴であれば、 suy と言っても良さそうなものだが、自然洞窟に住んだ古い時代からの伝統をひく語彙だと考えれば、煙とか有毒ガスを逃す自然洞窟の通風孔とも考えられる訳である。

 「 puyar 」が元の形だろう。それは「 puy 穴+ ar 片方の 」と分析が可能だからである。「片方の」という修飾語が名詞の後に置かれていることに違和感を覚える方もあるかも知れないが、中世まで大和言葉にも後置修飾語は普通に用いられていたから心配には及ばないのである(例えば、「大工の吉本」という普通の語序に対して、吉本の方を先に言って、「吉本が細工」という言い方が有った)。

 また道草を食ってしまったが、「ある」と「 an 」の関係に深く関わる問題でもあるので、今しばらく、耳を傾けて頂きたい。アイヌ語の「 raye 」と大和言葉の「やる yar 」の間の繋がりの問題である。ともに「我が身から遠ざける」を基本語意・中核語意とする。

 前(さき)に有るものを追い払って、替わってその位置を占める。今ある所から何かを追い払う、遠ざける。それが二つの異なる言語の、同じ意味を似た音で表すという不思議を醸すのは何故か。それが次の課題である。  (次回につづく)

Tracked from song id at 2022-06-16 13:44
タイトル : song id
アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその6 : アイヌのこともっと知りたい... more
Tracked from roblox id at 2022-06-16 23:42
タイトル : roblox id
アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその6 : アイヌのこともっと知りたい... more
Tracked from song id at 2022-06-16 23:53
タイトル : song id
アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその6 : アイヌのこともっと知りたい... more
Tracked from roblox audio.. at 2022-06-17 14:38
タイトル : roblox audio codes
アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその6 : アイヌのこともっと知りたい... more
Tracked from www.robloxso.. at 2022-06-17 14:39
タイトル : www.robloxsongidcodes.com
アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその6 : アイヌのこともっと知りたい... more
名前
URL
削除用パスワード
by atteruy21 | 2018-07-06 11:45 | Trackback(5) | Comments(0)