アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその222

生産活動に見る縄文と弥生ー175 (通巻第526号)

 動詞語尾の子音の「 n 」が、「 p 」へ転化する事によって語意に付け加えられる何らかの新たな意味が有りそうだ、そういう真実を掴みとるまであと一歩という所まで来た。だが、その真実を掴むには、言葉の骨格に手を突っ込んで、内臓を引きずり出すような、鮮血が飛び散るような解剖が必要になるだろう。もう一歩、言葉の内側に爪先を向けてみよう。

▽ エヌからピーへの転化で、もう一つ語彙の解剖を試みたい。「 asin 」と「 asip 」の比較・検証である。この二つの語は、
ともに「出る」を意味し、その単数形と複数形を表すと言うのが定説である。この「 asin 」という語を取り上げるについては、語尾子音の「 n 」が「 p 」に交替することで付け加えられる新たな意味というものが、いったい、どういう種類の性格をもったものであるかを、誰の眼にも分かり易く示してくれるものだからである。
...知里真志保「アイヌ語入門」に興味深い記述がある。アイヌ文化の研究者で評価も高かった農学博士・高倉新一郎氏の著書の誤りを捉えて辛辣な批判をした部分で、この asin が出てくるのである。とにかく読んで面白いので、引用してみよう。

▼  ...この人は、アシンペの語原について、「アシンは新しい、ペは物の意で」と言っているが、「新しい」という意味をもつアイヌ語は「アシン」でなく「アしル」( asir )である。従って、「新しいもの」と言うのであったら「アシルペ」( asir-pe )でなければならない。なるほど、アイヌ語には、「音節の尾音の -r は、 n や r の前に来れば -n になる」というキマリがあり、従って asir も、次に n- や r- で始まる語が来ればアシンという形になるけれども、それはあくまでも r-や n- の前に在る時だけの臨時の姿で、そういう独立の語形があるのではない。 -r は p- の前で -n になるなどということはゼッタイニない。
 従ってアシルペ「新しいもの」がアシンペに変わることもあり得ないわけである。音韻は、オンナゴコロやアキノソラと違ってそうそう気まぐれに変わるものではない。
 アシンペの語原は、「アしン・ペ」 asin-pe (出る・もの)ということである。「つぐないをする」「賠償を出す」という意味には、「イやシンケ」← i-asinke (物を・出す)という動詞もある。 asin は「出る」という自動詞、 asinke は「出す」という他動詞である。...以下、省略。

◎ 此処まで読んで頂いて、知里博士の巧妙なトリックに気付かれた方はおられるだろうか。子音「 n 」から「 p 」への転化の秘密を明かす重要な事実で、知里博士がうまく隠して表面化させたくなかった事柄が有るのである。
   (次回につづく)

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by atteruy21 | 2019-02-12 14:41 | Trackback | Comments(0)