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アイヌ語と日本語の中に残る「縄文語」ーその226

生産活動に見る縄文と弥生ー179 (通巻第530号)
 なかなか tan から tap への音韻転化の話にならないと、ヤキモキ気を揉(も)んでいる方も有るかも知れない。「 asinpe 」の話は遠回りでもないし道草食いでもなく、直接に近く tan から tap への変化の秘密に繋がる、その橋渡しの役割をもった重要な問題なのである。もう暫くお付き合いを頂きたい。

...「 asinpe 」という言葉を確認して見よう。中川辞典を見てみると...
アシンペ asinpe 【名詞】償いの品。...とある。この項目の直前にアシンの項があり、動詞1(一項動詞)で「外に出る。現れる」とだけ記述がされているが、アシンペなどとの関連については何も触れられていない。
 同じ発音をもち語意の異なる言葉が有る場合、中川辞典ではその語彙の関係について何も語らず、ただ並列して意味が述べられることが多い。それが中川教授の賢明なやり方なのかも知れない。辞書・辞典の類いを編纂する場合、通常は同一の音を持つ語彙には、何らかの形で両者(三者・四者もある)の関係に言及するものである。それが編纂者のとるべき普通の態度である。
 同音異義語なのか、それとも兄弟姉妹の、或いは遠い親戚に当たる言葉なのか示すべきである。同音異義語であるのなら、その意味の違う事象が、なぜ同じ音で表現されるのか。そこまでヒントだけでも教えてくれるような、そんな辞典が優れた辞典と言えるのだろう。辞典を繰って、言葉の更に深い意味を知ろうとする読者のために、何らかの情報が得られるような構成に辞典は編むべきなのである。勝手な素人のお説教はこれくらいにしておこう。

▽ asin (出る)という方向・運動を根本義とする語彙が、なぜ「償う」という複合的な意味を表し得るのか。単純な運動の概念が人間関係の調整を表すような複合的な高次の意味合いを獲得するに至る、その筋道を探ることは果たして可能なのだろうか。人間社会に於いて「償う」という観念が生じるためには、その社会が個々の構成員にとって役割と責任が伴い、かつ、その自由意思が尊重されるという社会的合意の形成が必須の前提であり、条件となる。構成員の間で何らかの行為による損害が生じ、その損害を生じさせた本人が、その行為に自由な選択の幅があった場合にだけ、「 償い= compensation 」という観念が生まれる訳である。
 自由の無い奴隷は、誤って主人の財物に損害を与えたとしても、それを償う関係に立つことなど無かったのである。尤も、その損害が甚大であれば、もちろん奴隷はその命をもって償わされることは有ったのだが...。

▼ 「償う」という観念は、大袈裟に言えば一種の契約社会でのみ成立する。成熟した、発展した社会でなければ、償いは言葉としても発生しないのである。狩猟採集社会では償うの観念は生まれにくいものなのだが、アイヌ古人の社会は、只の狩猟採集社会ではなく、遠洋にまで小舟で進出した交易を重要な生業とする社会でもあったのである。  (次回につづく)


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by atteruy21 | 2019-02-16 14:05 | Trackback(2) | Comments(0)